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ほしのひかり まちのあかり
冷たい夜風が衣服をはためかせた。月と星の仄かな光が柔らかく降りそそぐ。
セルボルト家の所有する屋敷の平になった屋根の一角。ささやかな笑い声が響いていた。
「わあ〜今日は満月かな?」
「満月には少し足りないんじゃないかしら?」
皓い月に届けと言わんばかりに手を伸ばす妹を、微笑みながらクラレットは危ないわよ、と嗜める。無邪気に笑うカシスの頭をソルが軽く小突き、何やってんだよ、と笑う。
その光景を近くにいながら、何処か遠くの出来事のようにキールは眺めていた。
満天の星に目を背け、笑いあう姉弟妹たちを見ていることも出来ず、足元に映った自身の影に視線を落とす。どうすればいいのか解らず、強く瞳を閉じ、気配を感じてまた開いた。
眩しい、そう思った。
「――――!?」
眼前を覗き込むようにする姿に驚き、僅かに仰け反る背を何とか持ち直し、数歩後ろに下がり、相手との距離をとる。
「兄さま?」
不思議そうに小首を傾げる幼い容姿に、薄茶色の柔らかそうな髪が揺れる。純粋さを保つ同じ色の瞳に自身の姿が映り、反射的に目を逸らした。
「キール兄さま?」
幼い声が紡ぐ名前が心の奥にコトリ、と落ち着く。じんわりと拡がる思いに戸惑い、困ったように眉根を寄せる。そんなキールの頭をやや乱暴に叩くソルに、カシスが抗議の眼差しを向けた。
「よ」
軽く挨拶らしき物をすると、脇を擦り抜け平になった屋根の際から遠くを眺めた。
カシスに似た色をした髪が風に揺れている。
「キール、ほら・・・」
いつの間にか傍らに佇んでいたクラレットが、繊細な造りの指をソルの見遣る方角へと指す。
遥か遠く、恐ろしく遠く見える先に柔らかい灯りが見えた。温かな光に胸が痛み、心臓の辺りに手を添える。心なしか鼓動が早い。
「サイジェント、と言う名の街よ」
微かな羨望の混じった声音で呟くクラレットをそっと仰ぎ見た。
淋しげな、それでも諦めない意志を持った瞳をしていた。
「・・・・・・いつか、行けると良いわね、あそこへ・・・」
微笑んで呟く姉に、ソルとカシスは振り返った。
「『だと良い』じゃなくて『行く』んだろ?」
「そ〜だよ!家族仲良く暮らすんだから!」
そうね、とクラレットが笑いソルとカシスも笑みを返す。
今度は自分の意志で街を見た。
「・・・行きたい、な」
風に消えそうな声でぽつりと呟く。
「行ったら毎日星空見れるかな?」
カシスが無邪気に笑う。
「太陽の下で走り回れるぜ」
ソルが目を細め、クラレットが微笑んだ。
「天体観測は初めてか?」
ぼんやりと星空を眺めていると、後ろからソルが声を掛けてきた。
「・・・・・・」
答えずにいると、すとん、と隣に腰を下ろした。
「俺は昔、外にいたから結構見たことあるんだ」
驚いたように此方を見るキールに微苦笑を返しながら続ける。
「ま、ガキの頃だからな。そんなに憶えてないけど。だからかもな・・・」
「?」
「空が見たくて抜け道を探したのは」
ごろり、と寝転がって星に手を伸ばした。
「此処への道もその一つ。おかげでこうやって皆で星が見れる」
向こうでクラレットとカシスの笑い声を聞き、キールは再び空を見上げた。
「前に一度だけ・・・。硝子越しだけど見たことがあるよ」
記憶の糸を手繰るように遠くを見てキールは呟いた。
「月の無い夜で、無数の星が瞬いてた。目みたいだったな・・・」
「そか」
「うん」
沈黙が流れ、星々が煌いた。
――――空にはやさしい星のひかり
クラレットの静かな声がそっと広がる。
「あれは?」
声の方を見遣りながらキールが訊ねる。
「姉さんの唄だよ」
「うた?」
――――街にはあたたかな家のあかり
「呪文、みたいだ」
不思議そうに耳を傾けるキールに、小さく噴出し笑う。
「ま、確かに呪文は唄みたいなもんだよな」
――――淋しいときには空を見て
「姉さんの詠唱は唄だぜ、他の奴らと違って綺麗だ」
しんとした夜闇に広がる何処か懐かしい唄にキールは耳を傾けた。
――――哀しいときにはおうちに帰ろ?
「――――寒い夜には手をつなご」
自然に、言葉が零れる。
ソルとカシスは驚いたようにキールを見た。
歌声が重なり、夜に浸透していく。
―――もう怖くないよ
一緒に夢をみましょう――――
唄い終えて、視線に気付きキールは弾かれたように顔を上げた。
ソルとカシスは驚きに目を見開いて此方を凝視していた。
クラレットは。何故か酷く哀しげに微笑んでいた。
ざわざわと木々のさざめく音が耳に木霊する。
「〜キール兄さま唄上手〜!!」
沈黙を破ったのはカシスだった。大きな瞳を煌かせ、呆然とするキールに飛びつく。
「え。あ」
どう反応すれば良いのか判らず狼狽するキールにカシスは抱きつき無邪気に笑う。
「・・・・・・そろそろお開きにするか!」
カシスをキールから引き剥がしながらソルは明るく言い放った。
「そうね」
微笑んでクラレットも頷く。
「行くぞ、カシス」
「は〜い☆」
一瞬ソルの視線がクラレットに向いたが、何事も無かったかのようにカシスの手を取りながら足早に去っていった。 「行きましょう、キール」
微笑むクラレットに微かに肯いて、前を歩く背に続く。
ふと振り返り月を見上げた。
先程口ずさんだ唄が思い出せず、キールはその場を後にした。
会って間もない頃、どうすればいいのか判らないキールさんの話でした。 ソルの口調って難しいかも・・・そう感じました。ううむ、再プレイせねば。
この話、出来たのは前の兄弟姉妹話書いてそんな間の無い時だったのに気が付けば今頃に・・・(汗)
ぼつぼつ兄弟姉妹の個人話が書きたいです。
もうちょっとネタが固まったら書こうと思います。
感想など頂けたら喜びます。
そういえばこれSN1で10本目の話でした(笑)
2はキリリクで多いので不思議な感じが・・・
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